従業員への損害賠償請求権と賃金の相殺
使用者が労働者に対して損害賠償請求権を持っている場合にしばしば問題になるのが、賃金から損害賠償の額を差し引き、相殺することが認められるかどうかです。
労働基準法では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。この条文から伺えるように、賃金には「全額払いの原則」があり、たとえ労働者の不法行為による損害賠償であっても、賃金と相殺することはできません。
退職金についても、就業規則等で定められ、支払うことが使用者の義務となっている場合は賃金にあたるとされています。つまり、退職金から損害賠償額を控除することはできないことになります。
ただし、禁止されているのは、あくまで賃金債権と損害賠償請求権の相殺を使用者が一方的に行うことです。労働者が相殺について同意している場合には、認められると考えられています。
合意による相殺をする場合に注意すべきことは、その合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものでなければならないということです。一方的に相殺がなされたとして後々問題とならないよう、合意事項について契約書等にするなど慎重に書類を整備・保存しておく必要があるでしょう。